2014年11月20日木曜日

10. 筋肉美の男

暗闇に目が慣れてきた。薄明かりの見える方向へ向かう。どうやらドアの下から漏れる光のようだ。光の漏れるドアまで辿り着き、ドアの取手を探す。しかし取手はどこにあるのだろうか?押戸か、引き戸なのだろうか?ドアに手のひらを押し付けた瞬間、ドアが上にスライドした。ドアの向こうは壁も床も白い通路のようだ。なんとも近代的なドアだな、とおっさんが思っていると、通路に声が響き渡った。「こら、候補生!訓練が終わっても訓練室を出るなと事前に説明があっただろ!」怒り声が聞こえてくるのはどこかにあるスピーカーのようで、声の主は見つからない。「候補生?なんのことだかさっぱりわからないんですが」と廊下の壁に向かって大きな声で答えるおっさん。すると通路の先の方の壁がするすると上にスライドして、体にぴったりした制服の様なものを着た男が出てきた。背の高さは180センチくらいだろうか、おっさんより20センチほど高い。整ったあごひげをはやしており、年は50歳半ば位だろうか、制服からはこの男の鍛えあげられた筋肉美が見て取れる。

「こら、候補生!なぜ訓練室を…待てよ、オマエは候補生ではないな」そう言い終わる前に制服の男は腰のベルトからスマートフォンのような物を取り出し、おっさんに向かって構えた。銃か何かだろうか。「オマエは何者だ!いったいどうやってここに入ってきた!警備室へ緊急連絡、訓練室前で不審者を発見、至急警備隊を送れ!」、おっさんは一体何のことだかわからず、動揺して汗をかきながらも、撃たれてはたまらんと、両手を頭より上に上げて、敵対心が無いことを示そうとした。制服の男は目にも留まらぬ早さでおっさんの後ろに回ると、おっさんの膝の裏を蹴り、おっさんを跪かせた。次の瞬間にはおっさんは床にうつ伏せになり、両手の自由は手錠のようなもので奪われていた。

その後の20秒間はおっさんには2時間にも感じられた。一体ここはどこなのか?この制服の男は一体誰なのか?これから自分の身には何が起こるのか?妻は果たして許してくれるのか?

バタバタと足音が聞こえてきた。おっさんの目の端には走ってやってきた4人分のブーツが見える。制服の男が厳しい口調で言う、「不審者が訓練室から現れた。無抵抗だが注意を怠るな。二人は不審者を見張れ。後の二人は私はについて来い。訓練室の候補生達の安全を確認してくる。」

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